河原節子

どのような手法をとろうとも、争いの前の状況に戻ることはできず、双方が完全に満足する解決策はない。では、何のために困難な和解の努力をするのであろうか。それは、より良い関係を築くためであり、それには双方にとって利益になるとの確信が不可欠である。和解が双方向のコミュニケーションのプロセスである以上、また、両者に一定の妥協を必要とする以上、両者がこうした確信を持つことが全体のプロセスを通じて最も重要な基盤であると考えられる。また、ある和解の方策が合意されても、それが繊細なバランスの上に成り立っているため、その合意を守ること自体にも、多大な努力が必要となることを認め合うことも必要であろう。 特に、記憶や歴史の分野においては、当事者間で統一的な立場や見解を得ることは極めて困難である。相容れない記憶を相互に否定しあうのではなく、それぞれの負った痛みや苦難を包括的にとらえようと努力をすること、そして、過去の苦難に関する記憶を次世代に引き継ぐのは、次世代に対立の種を手渡すためではなく、より良い未来のためであることを明確に意識することが求められているのではないか。 和解 ―そのかたちとプロセス― (PDF file)